鉄鯉(てつり)~早く、速く。今のばんえい競馬に合うブルトンの血 <前編>

※写真の無断転載は厳禁です。よろしくお願いいたします。

体高:163センチ 胸囲:236センチ 管囲25.6センチ
ブルトン種・鹿毛 音更産 1960年生
父:(ブルトン)アンパレール
母:(ブルトン)キャロリーヌ<母の父アボメ>
1963~74年 音更で
1968年一時網走で供用

1970年代後半に産駒が活躍した
輸入馬二世の国有種雄馬

 鉄鯉は十勝種畜牧場(現在の家畜改良センター十勝牧場)の生産馬です。国が推進する家畜改良の原種としてフランスから輸入された父母から生まれた馬です。国有馬の馬名は両親の馬名から連想される漢字を1文字ずつ選び組み合わせて決められます。父アンパレールの「アン」からアイアンを連想し鉄、母キャロリーヌの「リ」から鯉(リ)の音を取り出しで作られた名前なのだそうです。「アン」=鉄はかろうじてわかるけど、「リ」=鯉?! ちょっと不思議なネーミングセンスですが…。後に民間に払い下げられるまでは、民間牧場からの種付け依頼は人工授精で対応していました。(重種馬はサラブレッドと違い人工授精でも競走馬登録ができます)。
 父アンパレールは名鑑を見ると体高154センチと小柄でしたが母キャロリーヌが大柄な馬で、鉄鯉も母に似て1トン近い馬格がありました。先に紹介した二世ロッシーニと比較すると、体高は10センチ低いのですが胸囲は二世ロッシーニより太く、ブルトンの肉付きの良さ幅の広さをこの数字からも推察できます。

 産駒は小柄でも勝負根性に優れていたそうです。ブルトン種らしく早熟で、世代戦と軽重量に向く産駒が多かったのですが、種雄馬後半の産駒ダイケツが、雪降り馬場で2分40秒台ではあるものの、7歳でばんえい記念を制しています。このダイケツを始め後述するキタノテンリュウなど民間に払い下げられた種雄馬晩年のほうが活躍産駒が出ています。凍結精液の人工授精ということで、国有馬時代は民間で供用されるときほど質量ともに繁殖牝馬が集まらなかったのかもしれません。

 鉄鯉の種雄馬成績です。

リーディング(1971~1988年の市営協議会会報より)
2歳リーディング:1976 1977
3・4歳リーディング:1976 1977 1978
5歳以上リーディング:1978 1979 1980

主な産駒 主な重賞勝ち
ダイケツ
 農林水産大賞典ばんえい記念 イレネー記念
キタノテンリュウ
 ばんえい菊花賞
キヨタカラ
 ばんえいオークス
ヒメテツリ
 黒ユリ賞
テツワカ
 岩見沢記念
 ダイケツはイレネー記念とばんえい記念、両方勝っています。早熟で晩成。この当時としては珍しいのではないでしょうか。

鉄鯉のインブリードを持つ
現役オープン馬

 7/11日現在のオープン格の馬たちが持つ5代以内にある鉄鯉の血を記載します。
鉄鯉の位置の読み方は前回同様です。S数字=Sire(父方)の数字代前 D数字=Dam(母方)の数字代前 ×でつながっている場合は複数持っています。
 オーシャンウイナーなどは文字で書くとややこしいですよね…解り難いなと思われた方は日本馬事協会の登録場情報で検索をして5代血統表を見ていただけると手っ取り早いです。

馬名鉄鯉の位置鉄鯉を伝えるサイアーライン
メムロボブサップD5キタノテンリュウ~テンショウリ~母系祖母
アオノブラックD5キタノテンリュウ~ダイヤテンリュウ~母系祖母
メジロゴーリキS4×D5マツイサム~カゲイサム~父
キタノテンリュウ~ダイヤテンリュウ~祖母
アアモンドグンシン
キタノユウジロウS5マツイサム~カゲイサム~父の母(カネサウイン)
キョウエイリュウS5マツイサム~カゲイサム~父の母(カネサウイン)
オーシャンウイナーS5鉄鯉~父系祖母の父の母
ミノルシャープS4×D5×D5キタノテンリュウ~ダイヤテンリュウ~父
キタノテンリュウ~テンショウリ~ツルマキシンザン~母
マツイサム~カゲイサム~母系祖母
カイセドクターS5×D5マツイサム~カゲイサム~父の母(カネサウイン)
キタノテンリュウ~ダイヤテンリュウ~母の父
マツカゼウンカイ
サクラヒメS4×D5キタノテンリュウ~ダイヤテンリュウ~父
鉄鯉~母系祖父の父の母
ゴールドハンターD5×D5キタノテンリュウ~第三竜王~ホクリュウイチ~母
キタノテンリュウ~ダイヤテンリュウ~祖母
インビクタ
キングフェスタS5×S5×D5鉄鯉~父系祖父の父の母
カゲイサム~マツイサム~父の母(カネサウイン)
キタノテンリュウ~第三竜王~ホクリュウイチ~母
ヤマトタイコー※母方の6代前にいます(5代前にキタノテンリュウ~ダイヤテンリュウ~母の父の母)
シンエイボブD5キタノテンリュウ~テンショウリ~母系祖母
ウンカイタイショウD5マツイサム~カゲイサム~母系祖母
コマサンブラックD5キタノテンリュウ~ダイヤテンリュウ~母系祖母

 こうして見るとほとんどのオープン馬に鉄鯉の血が入っています。そして鉄鯉の血の多くは、マツイサム、キタノテンリュウの二頭の種雄馬によるサイアーラインによって伝えられています。

二つの主流血脈

 今回はこの二つのサイアーラインからマツイサムを紹介します。

キングフェスタの血統登録名はその名も「第ニ鉄鯉」
たしかに鉄鯉、5代血統表の中に3回登場しますものね。

 最初の表で網羅しているので重複になりますが、図説するとより解りやすいのではないでしょうか。祖母の母の父とか…実は書いているほうもややこしくて代や父系母系を間違えていないか心配です。(もし間違えていたらすみません)

 カゲイサムについては船橋にデモンストレーションに来た時の話をブログでも書いているのでぜひこちらをごらんください。
私の愛すべきメジロゴーリキはこのサイアーラインの直系です。ニシキダイジン亡き後、この父系を継ぐ大事な種雄馬になってくれることと思います。

 カゲイサム産駒のカネサウインは母として偉大な種雄馬を2頭送り出しています。カネサブラックとカネサテンリュウの兄弟です。
※カネサウインの顔写真はどう探しても見つからなくて、馬事協会の登録情報と娘のカネサヒロインの顔を参考に想像で描いています。
 カネサブラックはばんえい記念2勝をはじめ重賞21勝。オレノココロに破られるまで、重賞最多記録を持っていた名馬です。種雄馬としても優秀で重賞勝ち馬を次々と送り出していました。早世が惜しまれます。弟のカネサテンリュウは重賞勝ちはなく競走成績の見栄えはしないものの、種雄馬として大成功をしています。

 それにしても…描いていて鉄鯉は鹿毛の系譜だなぁと改めて思いました。キタノユウジロウの栗毛流星はカネサテンリュウの父コーネルトップ(ベルジアン種:尾花栗毛が多い)から受け継いでいます。

 マツイサム~カゲイサムの血脈はブルトン種でありながら高重量にも適性を感じます。ニシキダイジン、メジロゴーリキ、カネサブラックと3頭のばんえい記念馬を出し、キタノユウジロウも帯広記念の勝ち馬です(キタノユウジロウの高重量適性はコーネルトップからという気もしますが)。先日引退したイオンや、ばんえいオークス馬アバシリルビーなど世代戦向きのスピードタイプの馬も多いので一概には言えませんが、次回紹介するキタノテンリュウ系よりも高重量の重賞勝ちを出している系譜とは言えます。

 キタノテンリュウ~ダイヤテンリュウから広がる血脈とその産駒たちは本当に数が多いので、次回紹介します。(その前にまた重賞予想挟みます…すみません遅筆で…)

参考資料と写真提供

・ばんえいスタリオンズ 田島芳郎著
地方競馬全国協会機関広報誌「ハロン」1997年5月号~1998年5月号連載

★ばんえい DRAFT RACE
市営協議会会報 vol.2~19

・北海道種雄馬名鑑 思い出の名馬三十年史 

・日本馬事協会 登録馬情報 サイト

私設ばんえい競馬資料館 サイト
こちらのサイトは父系、母系、五代血統表等をわかりやすく編集してあります。ばん馬の血統について詳しく知るならココ!というサイトです。
別館のブログでも秀逸なコラムがたくさんあって、ばんえい競馬をより詳しく知りたい方にはおすすめです。
トップにもリンクバナーを貼らせていただいたのでぜひご覧ください。

種牡馬写真提供 ばんえい十勝
種雄馬の写真はばんえい十勝広報様よりご提供いただきました。
掲載写真については、ばんえい十勝広報までお問合せ下さい。

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