第三の品種　～ベルジャン種の種雄馬について～　その１

ベルジアン種について

　実は昨年からマイブームでぽつぽつとベルジアン種のことを調べています。きっかけはアオノブラックのサイアーヒストリーをまとめていた時に、ミノルキンショウという種雄馬について調べたことです。その際輸入ベルジャンについて産地や血統等をベルジアン協会サイトで調べたことが、とても面白かったのです。重種の血統が1900年代初頭まで遡れるベルジアン協会のサイトに感動しました。そこで、改めて日本に導入さればん馬の改良に大きく貢献したベルジアン種について、もう少し調べてみようと思いました。私の好奇心にお付き合いいただけますと幸いです。

　初回、日本に導入された５頭のベルジアン種雄馬の５代血統表を紹介します。ジアンデユマレイ、マルゼンストロングホースは以前ブログで紹介しましたので、そのページのリンクを貼りました。その他の馬はお借りした資料に掲載されていた写真と、調べられる範囲での種雄馬成績を５代血統表に添えます（ブランク部分は調べが付いたタイミングで追記いたします）。２回目はベルジアン種の２大種雄馬、ジアンデユレイとマルゼンストロングホースについて、去る２月、実馬を知っていらっしゃる方にお話を聞いて来たので、その聞き書きをまとめたいと思っています。

輸入ベルジアン種の５代血統表

・ジアンデユマレイ（1971年生）
・マルゼンストロングホース（1971年生）
・コンエレガント（1973年生）
・スチュワーツブルース（1977年生）
・コーネルライス（1986年生）
　馬名をクリックすると５代血統表に飛びます。＜＞内の番号は登録番号です。この番号で、ベルジアン協会サイトで検索ができます。血統表を眺めると、Jay Farceur、Elegant du Marais、Progress　という種雄馬達が頻出していることがわかります。ジャンデユマレイがインブリードを持つ、Jay Farceurの３代父Farceurと、日本に輸入された馬の多くが持つコンケラー（Conqueror）の父Progressは米国ベルジアン協会のサイトに写真が掲載されています。馬名にリンクを貼りましたので、よろしければ眺めてみてください。Farceurは毛色が違えどジアンデユマレイに後肢の形などよく似た雰囲気があると感じます。Progressはベルジアン協会の殿堂入りをしている馬です。
　また実際に登録情報を読んでいただければわかるのですが、栗毛の分類が非常に細かく書かれています。明るい栗毛、ブロンド、赤銅色、明るい赤銅色、暗い赤銅色、明るい栗毛、暗い栗毛などなど…ここではまとめて栗毛と記載しています。

ジアンデユマレイ　Jan du Marais
栗毛　1971年生＜S31098＞

【ジアンデユマレイの詳細はこちら】５代以内にあるインブリードは、Jan FarceurのS２×D３、Elegant du Marais IIのS３×D４、Elegant du MaraisのS４×D４×D５、ProgressのD3×D５、Master FarceurのS4×D５。
ご覧の通りジアンデユマレイはかなりインブリードの濃い種雄馬です。日本の重種改良の祖、イレネー号のような米国ベルジアン種の祖、Furceurの血を濃く受け継いでいてます。

マルゼンストロングホース　Lafayette du Marais
栗毛　1971年生＜S31100＞

【マルゼンストロングホースの詳細はこちら】Lafayette du Maraisはマルゼンストロングホースの米国での登録名です。５代内にあるインブリードはMaster FarceurのS5×M５、FletcherのM5×M５。ジアンデユマレイと同年に生まれているのですが、馬の世代的には10年ぐらい時代が後ろにずれている印象です。インブリードはジアンデユマレイと比較すると濃くはありません。しかし、Jay Farceur、Elegant du Marais、Progressの血が入っています。何頭か５代血統表を描いていて気が付いたのですが、ベルジアン種は時代が進むにつれて粕毛や鹿毛が少なくなりほとんどが栗毛になっていきます。ジアンデユマレイでは４代目まで粕毛が何頭かいて、５代目には鹿毛がいるのですが、マルゼンストロングホースには４代目までに部分的に粕毛がある馬が１頭、鹿毛は５代までに１頭もいません。こういう所もちょっとジアンデユマレイより後代の馬なのかなという印象を受けます。

コンエレガント Con Elegant
栗毛 1973年生＜S31484＞

　釧路農協が輸入したベルジャン種雄馬、コンエレガントは父コンストリコ（Constrico）が2021年に、母ミスマチルダ（Miss Matilda）は2019年に、ベルジアン協会の殿堂入りをした馬です。父母ともに名馬なのですが、血統表を眺めるとちょっとびっくりします。
ConquerorのM２×S４×S５×S5、Matilda FarceurのM2×S３、ConquestのS3×S4、Shirley BelleのM3×S5、Jay FarceurのM３×S４、Lady du MaraisのM3×S4、Lady ProgressのM4×S５、ProgressのS５×M５、Elegant du MaraisのM４×M5、Elegant du Marais IIのM4×S５…まだ見落としがあるかも…ちょっとインブリードを書き出すのが大変なくらいの濃い血の持ち主です。これ大丈夫？というくらいConquerorが重なっています。また牝馬Matilda Farceurのインブリードもとても濃い。また、このMatilda Farceurの母Lady du Marais（血統表上に★付けました）はジアンデユマレイの３代祖母。この２頭は同牝系です。

スチュワーツブルース　Stewart's Blues
＜米協会登録番号無し＞栗毛 1977年生

　本馬自体はカナダ産なので、米ベルジアン協会に登録番号がありません。しかし父母は米国ベルジアン協会に登録があり5代血統表を作ることができました。ベルジアン種はカナダと米国の国境付近が生産地です。ジャンデマレイもカナダで購入された馬ですが、生産は米国です。馬の行き来が頻繁なのだと思います。

　スチュワーツブルースはえりも農協が導入した種雄馬で、産駒数は多いものの実はめぼしい活躍馬は出ていません。種雄馬としては成功したとは言えない馬ですが、あえて血統表を作ってみたのは、純血ベルジアン種でばんえい記念を勝った、マルゼンバージが持つ種雄馬と同じ馬が血統表に頻出しているからです。Penn State ConquerorのS4×S4×S４。また、父系の5代目にいるFarceur's Major＜S28236＞の母はLisaで、Penn State Conquerorの祖母と同じですし、父系の5代父にいるTripsee du Marais＜S28503＞はElegant du MaraisのM3×M3を持っています。スチュワーツブルースの父Remlap Donはかなり濃い血を持った種雄馬です。Penn State Conqueror「ペンステートコンケラー」という種馬は、マルゼンバージがS３×M４で持っていて、Tripsee du Maraisもまた、マルゼンバージがS4×M５×M5で持っています。以前コラムで紹介した、全姉妹3頭が5代血統表の中にいる、その全姉妹の父がTripsee du Maraisなのです。
　本馬の父系祖父母、Orndorff's Lark Chief＜S31075＞、Orndorff's Pervenche<M39538>は名前の通りOrndorffさんという方の生産馬で、マルゼンバージの母ヂアンスジュル（Jan's Jewel）の母系祖父母の生産者と同じです。当時のえりも農協が同じエリアから馬を探していたのではないか…と想像します。そして、マルゼンストロングホースとジアンデユマレイが成功して、同じ時期に、同じような血統を持つスチュワーツブルースが成功しなかった理由はどこにあるのか…明確な正解を見つけることはできませんが、個人的な推論を持っていて、それを書くためにもスチュワーツブルースを紹介したかったのです。

コーネルライス B & B Colonelrais
栗毛 1986年生＜S44453＞

　コーネルライスは、十勝農協連がジヤンデユマレイに続けて導入した種雄馬です。ConquerorのS3×S４×M5×M5、ConquestのS３×M４×M5、ProgressのS4×S5、牝馬のインブリードがNorene de PapelotteのS4×M5、Shirley BelleのS4×S5、Miss MatildaのM4×M5。Miss Matildaは先に紹介したコンエレガントの母ですし、Miss Matildaの母Lady du Maraisはジアンデユマレイの３代母になります。また、Tripsee du Maraisはマルゼンストロングホースやスチュワーツブルースの血統表にも登場する…。血が濃い上に神経衰弱のようにどの輸入ベルジャンにも同じ種雄馬が入っているのです。また、この血統表にもOrndorffさんの生産馬が入っています。どうしてこれほど米国のベルジアン種にインブリードが多いのか謎ですが、おそらく輸入してきた牝馬もまた、似たような血統構成だったのだと思います。マルゼンバージがPenn State ConquerorのS３×M４に加え、全姉妹３頭が５代血統表内にいるという濃厚なインブリードを持つに至ったのは、総じて北米から輸入してきたベルジアン種にインブリードを持つ馬が多かったからだと思います。

その他のベルジアン種雄馬たち

ベルジアン種は1970年～90年代の前半の間、かなりの頻度で輸入されています。
平成５年の十勝管内供用種雄馬名簿では
・ヤマサスチール
・グリーンエーカーズ
・クォントヘイブンエディー
・コンテイニユズマークス
の立写真を見ることができ、平成４年の馬事協会の種雄馬名簿からは
・ペイトンズ
・ロムビル
といった名前を見つけることができます。

　実際何頭くらいベルジアン種雄馬は導入されたのか…日本馬事協会のサイト上に登録があるベルジアン種の種雄馬をカウントすると、外国産の数は2４頭。持ち込みが（受胎した母馬を輸入して日本で血統登録を受けた馬）8頭、国産のベルジアン種種雄馬は6頭でした。なお、このうち４頭が母ヂアンスジュル。つまり、ばんえい記念馬マルゼンバージとその全兄弟です。
　そして、今回血統表を書いたベルジアン種雄馬以外の種馬から、重賞勝ち馬や特別勝ちを送り出しているのはロムビル（ダイニタカラ＜ばんえい大賞典＞、ソラチホープ＜青雲賞＞）とペイトンズ（レディーワンダー＜クインカップ＞）。持ち込みの隆峯（ヒカルライデン＜釧路産駒特別（2歳特別）＞）。いずれも世代戦までで古馬のオープン馬はでていません。また、ジアンデユマレイとマルゼンストロングホース以外の北米から輸入したベルジアン種のうち、種雄馬ランキングの総合部門で20位以内になった種雄馬は以下の3頭だけです。
・コンエレガント（1985年16位）
・ロムビル（1989年12位）
・コーネルライス（1995年18位）
ベルジアン種の種雄馬は必ずしも成功ばかりとは言えなかったようです。

輸入ベルジアン種の現在と牝馬

　1970年代から導入が始まったベルジアン種の導入は2000年に入ると途絶えています。1995年生まれのアセルスタインデユク（繁殖登録番号01S 01425）以降の生年の種雄馬は、馬事協会のサイトを確認する限りは輸入されていません。なお、この馬はマルゼンストロングホースを導入した橋本氏が購入しています。
　また、以前、馬事協会ベルジアン種の種雄馬について問い合わせたところ、日本馬事協会では1994年（平成６年）まではカナダからベルジアン種の種雄馬を輸入したけれども、2013（平成25年）以降馬事協会が作成している種雄馬名簿かベルジアン種の種雄馬がいなくなっていると回答をいただきました。いずれにしても現在、北米産ベルジアン種は導入しなくなって久しいのが現状です。　

　導入しなくなって久しいのは、ばんえい競馬が存廃問題に直面し、賞金の下落、それに伴い馬の価格が下落したことと無縁では無いと思います。そして、先にも書きましたが、大成功したのは２頭のみ、実績を残せた馬も２～３頭で、その他の馬は費用と労力に見合う成果を得たとは言い難い成績でした。北米から手間と費用をかけてベルジアン種導入にチャレンジする余裕がなくなったのだと思います。

　ですが、今年、ばんえい十勝牧場が北米からベルジアン種の牝馬を購入したと聞きましたし、日本馬事協会もベルジャン種の導入に向けて視察に行くという話も伺いました。四半世紀のブランクを経て、再び輸入ベルジアンの父母の名前を見る機会が訪れるかもしれません。

【おまけ】
　馬事協会登録データからベルジアン種が何頭いるかカウントするのに血統登録、繁殖登録がある馬を全てエクセルにコピー＆ペーストしてカウントしてみました。ベルジアン種の牝馬の登録総数は664頭、うち繁殖登録のみは529頭。（血統登録がある馬は国産馬、あるいは持ち込み馬と思われます）夜な夜なサイトからデータをエクセルにコピーペースト＆フィルターでカウント…という原始的な手法なので、ほぼこんな数字…と９割方の信頼度で見ていただければと思いますが、この頭数を見ていると牡馬より圧倒的に牝馬を導入しています。この繁殖牝馬達とその子孫からマルゼンストロングホース（ばんえい記念馬）やニシキダイジン（ばんえい記念馬。メジロゴーリキの父）、ユミタロウ（176戦26勝　旭川記念　種雄馬）、トウリュウ（277戦34勝　種雄馬）兄弟などが生まれています。

資料と写真転載について

　今回、古いベルジアン種のお話をお伺いしにいった生産者の方にご尽力いただき、昭和～平成初期の古い種雄馬の資料をたくさんお借りすることができました。今まで、ばんえい十勝の広報のご協力いただいて借りていた写真の出典はこれらの資料です。

　残念ながら今これらの資料を直接手に取れる場所はほとんどありません。本来写真の引用は十分に配慮すべきもので、不用意にアップすべきではないのかもしれません。しかし、普通のアプローチではなかなか閲覧できないので、どこかで見られる場所を作っておきたいという思いと、血統表と立写真はセットでお見せしたいため、資料から引用元を明記の上コピー掲載をしております。

　今後、写真の掲載についてもしも問題が出るようなことがあれば申し訳ありませんが写真は削除いたします。また、こちらの写真の元資料はばんえい十勝様、もしくは帯広競馬場にある馬の資料館などで保管があるものです。古い種雄馬の写真を見てみたいと思われる方は、ばんえい十勝広報へお問い合わせください。

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