マルゼンストロングホース~大きさとパワーを伝えるストロングホース

※写真の無断転載は厳禁です。よろしくお願い致します。

体高178センチ ベルジアン種 米国産 1971年生
父コントリビュター(Contributor) 
母ジャネットスプレムドファルクール(Janette Supreme de Farceu)
母の父サニーレーヌマルキ(Sunny Lane Marquis)

大きいことは良いことだ!

 ばんえい競走馬の生産に携わる方に「どんな仔馬が競走馬として評価されますか?」と聞いたことがあります。即答で「大きな馬!」と教えてくださいました。お二人の方にお聞きしたのですが、お二人とも同じでした。サラブレッドにはいろいろな相馬眼があるかと思うのですが、ばんえい競馬においてはまず「大きい」ことが大前提でそこから体型や骨格などの精査に入ります。
 今を時めく賞金ランキング一位のメムロボブサップが、仔馬の頃小柄だったために、血統が優秀だったにもかかわらず買い手がつかなかったことは、良く語られるエピソードです。

 70年代に輸入されたベルジアン種は、それまでのペルシュロン種、ブルトン種よりも一回り大きい品種で、従来のばん馬たちにベルジアン種が混血することにより、ばん馬の大型化は進みました。現在、競走馬のほとんどが3~4歳で1000キロを超える馬体重になり、古馬になると1200キロを超える馬もいます。

 1970年代は、ばんえい競馬が興行として定着し、より強い競走馬を作るため、大型化と雑種強勢を求めて第三の品種を模索していた時代でした。クライスデールやアルデンネを導入したという記事を、当時の市営協議会の会報で見かけます。その結果、新馬種として大成功したベルジアン種の種雄馬の一頭がマルゼンストロングホースです。その名の通り強い力を現在のばん馬達に伝えています。

 マルゼンストロングホースはマルゼンスキーの生産者として、またオリンピアンで国会議員の橋本聖子氏の御父君としても有名な橋本善吉氏が輸入された馬です。競馬ファンにはサラブレッドの印象が強いのですが、育牛業者としても有名で、ばんえい競馬の生産馬主としても長く活躍されていました。今から半世紀も前に年2~3回、馬や牛を買い付けに欧米にいかれており、マルゼンストロングホースの他にも北米のペルシュロン種(国営牧場のペルシュロンの多くはフランス産です)、クライスデール種も輸入されていました。

 マルゼンストロングホースは当歳時に購入後、3歳まで北米の生産牧場で留め置かれ、1歳、2歳で米国各地の共進会で優勝しています。 父馬は体高192センチと非常に大きく、母馬も全妹も共進会で何度も優勝する馬でした。本馬も当歳でたまたま放牧されているのを見かけて一目ぼれして購入したというくらいですので、馬格も姿形も秀でだ馬だったのだと思います。

 輸入後、早来周辺(胆振・空知両支庁管内)の草競馬で27戦全勝という圧倒的な強さを示し、実績の無い新馬種、重種生産の主流地区である道東から離れているといったハンデにも関わらず、4歳時から多くの繁殖牝馬を集めました。実は27戦全勝ですが…どうも輸入時に1歳意図的に年を誤ったらしい(つまりは草競馬で実力を見せつけて繁殖を集めるためにサバを読んだ)…とは田島先生の説で、このコラムはそれに沿って、マルゼンストロングホースの生年を公式な馬事協会の記録ではなく、1年早い1971年にしています。50年前の重種馬だとそういうこともできたのでしょうか?

種雄馬としての成績です。

リーディング
3・4歳リーディング:1985

 実はもっとリーディングを獲得しているかと思っていましたが、種雄馬としては同時期にジャンデュマレイというライバルがいたおかげで、リーディングを取っているのは1985年の3・4世代のみでした。

 1978年の2歳リーディングに登場してから90年代半ばまで、世代か総合かのいずれかで常にトップ5には入っているのですが(89年~91年の総合ではジャンデュマレイの2位)リーディングサイアーは獲得できませんでした。とはいえ、ジャンデュマレイとマルゼンストロングホース、二頭のベルジアン種雄馬は、ばん馬に革命を起こすほどの大成功を収めたことに変わりは有りません。

主な重賞勝ち馬
マルゼンバージ
 ばんえい記念(2回)、岩見沢記念(2回)、帯広記念、旭川記念、ばんえいダービー
マルトダンサー
 ナナカマド賞、ばんえいダービー、ばんえい大賞典、ばんえい菊花賞、チャンピオンカップ
ホウショウリキ
 イレネー記念、ばんえい菊花賞、チャンピオンカップ
ハクタイコー
 北見記念、旭川記念
●ロングボーイ
 旭川記念
●マルトクイン
 ばんえいオークス、チャンピオンカップ
●チカラトウショウ
 イレネー記念、ポプラ賞
●ホウエイヒメ
 黒ユリ賞、クインカップ
●マルゼンダンサー
 イレネー記念
●スターカップ
 クインカップ
●ゴジエルクイーン
 黒ユリ賞
●タニノリュー
 ナナカマド賞

 2歳から4歳までの世代戦重賞の活躍馬が多い印象ですが、初期の活躍馬マルトダンサーのおかげで繁殖牝馬の質があがり、種雄馬キャリアの後半では古馬の活躍馬が増えていきます。最高傑作であるマルゼンバージは純血種としてははじめてばんえい記念を勝ちました。以後、純血種のばんえい記念勝ち馬はいません。日輓種が競走馬の主流となった現在、今後も無いのではと思われます。
 マルゼンバージの雄姿はこちら↓

「ばんえい競馬名馬紹介

リンクから、ばんえい十勝公式のYoutube動画でご覧になれます。またマルゼンバージについて詳しい解説を競馬ブックばんえい十勝の木本トラックマンがされているので、そちらもぜひお聞きいただければと思います。

【おまけ】ところで、ベルジアンの名馬、マルゼンバージは父系祖父の馬が3×4、全姉妹3頭が3×4×4に入る非常に珍しい形の近親交配になっている…と田島氏の記述(ばんえいスタリオンズvol.5  ハロン1997年9月号)にあります。が…確認するべく馬事協会の5代血統表を見たところ不詳となっています。いったいどうやって調べたの?! とその情報ソースにうなるばかりです。実際、ばんえいスタリオンズで書かれている血統が、馬事協会では「不詳」となっていることは多々あります。先の生年の届出間違いもそうなのですが、田島氏は馬事協会の届出書類ではなく、輸出入手続き書類の原本を当たっているのではないでしょうか…資料の当たり方がすごすぎます。

直系は牝馬の世代戦
母の父として高重量戦
二つの顔があるサイアー

ベルジアン種は尾花栗毛の系譜で
旭川を得意としたアキバオーショウの
ブロンドたてがみの美しさは
オールドファンの間で語り草になっています。

現在賞金ランク上位20頭のうち、5代インブリードを持っている馬は下記の5頭。
(日本橋協会の5代血統表のリンクを貼ります。SはSireで父方、DはDamの略は母方で、数字は何代前かを表します)
アオノブラック S4×D5
オーシャンウイナー D4×D5
マツカゼウンカイ S4×S5×D4
ゴールドハンター S4×D5
コマサンブラック S3×D5
 またマルゼンストロングホースを持たない馬も9頭いて、二世ロッシーニや鉄鯉に比べると少し割合が少ないという印象があります。

 マルゼンストロングホースの生涯の産駒数は486頭、種雄馬の登録があった馬は52頭、繁殖牝馬登録があったのは180頭になります。多くの馬が種雄馬になったのですが、父系として現役でAクラス以上の活躍産駒を出しているのはアオヤマトップ~アキバオーショウのラインと、カゲオー~ニュートリノのラインしか見当たりません。(見落としがあったらごめんなさい)アキバオーショウも主な活躍馬がなぜかみんな牝馬で父系は先細りになりつつあります。

 しかし、偉大な主流血脈、ウンカイの母ミハルの父がマルゼンストロングホースで、ウンカイを経由して今後も影響力を持ち続けることと思います。また、ウンカイ産駒で今後を期待をされている2頭の人気種雄馬、フジダイビクトリーコウシュハウンカイはマルゼンストロングホースのS3×D3という強いインブリードがあります。(馬名に5代血統表のリンクを貼りましたのでご確認ください)ここからもマルゼンストロングホースの血は広がっていくはずです。

 マルゼンストロングホースは、馬体の大きさから世代戦を優位に進める早熟性がありつつ、高重量に強い産駒も多く出しています。直仔にばんえい記念馬マルゼンバージがいるのはもちろんのこと、母の父としてスーパーペガサス(ばんえい記念4連覇)も出しています。ばんえい記念を勝ったフジダイビクトリーや、帯広記念を勝っているコウシュハウンカイは強いインブリードがあります。印象ですがブルトンの勝った血統と合わされば早熟とスピードを活かし、ペルシュロンの勝った血統と合わさればばんえい記念などの高重量戦に向く…マルゼンストロングホースはベルジアンの万能性を体現したサイアーです。
 

ベルジアン種の体型について

 実は…写真を見て疑問に思うことがあります。最初の品種紹介のコラムでベルジアン種の特徴として、「腰高」「脚長」と記載しました。従来から言われていることでもありますし、「輓系馬の体型と能力に関する調査報告書」(1994年3月 社団法人日本馬事協会)という資料にも品種の特徴として確かに記載されているのですが…。マルゼンストロングホースの脚は長くはないな…と思うのです。

 もう1点私が確認できた本馬の写真は、ハロンのばんえいスタリオンズに掲載されている放牧地を走っている写真なのですが、これを見ても、むしろ重心が低い。どちらも水平な位置にちゃんと立たせた立写真ではないので、強くは言えませんが、そっくりだと言われる産駒の純ベルジアンのマルゼンバージの写真を見ても、そう脚は長くは見えないですし、強いインブリードを持つコウシュハウンカイフジダイビクトリーも脚が長い印象がないのです。(同じウンカイ産駒でも脚長というとセンゴクエースを連想します)
 
 ただ、マルゼンストロングホースは体高は178センチと確かに従来のペルシュロン、ブルトンより上背がある。つまりマルゼンストロングホースは「体ごと大きい」のではないかな…と思います。次回掲載予定のベルジアン種、ジャンデマレイは腰が高く脚長の印象を受けます。80年代~90年代の種雄馬の写真はなかなか見る機会がないので、他の輸入ベルジアン種がどんな体型か知るすべがないのですが、ベルジアン種=脚長ではなく、個体差は結構大きいのではないかと思います。そして重心が低いほうが高重量を曳いて登坂するのに向いています。ここからは本当に想像なのですが…マルゼンストロングホースを購入された橋本氏は大きくて脚が長くないからこそ、ばん馬として一目ぼれしたのではなかろうか…と思うのです。(根拠は一つもありません。想像でしかないので読み流してください)
 
 というのも1970年代ですでに北米のベルジアン種はショーホース化していて、現地では脚長な馬が喜ばれたと言われます。ジャンデマレイも古風な血統のベルジアン種だと田島氏の著作にはあるので、ジャンデマレイもばん馬にしては脚長でも、北米のベルジアン種としては重心が低い部類に入るのかも知れません。日本のばんえい競馬に向く重心の低い大柄な重種を探すのは、当時からすでに困難だったのではないでしょうか。もし橋本善吉さんにお話しを聞くことができたなら、マルゼンストロングホースのどこに惚れたのか、一目ぼれの理由をぜひ聞いてみたいです。

加筆:ばん馬の良馬とは…

 推測で書いた体型についての考察ですが、もう少し手掛かりになるような資料を見つけたので加筆します。「蹄跡」(つめあと)という書籍にその記述があります。この本は北海道馬産史編集委員会という馬産有識者組織が、昭和58年に発行した北海道馬産の歴史書です。この中に農協が昭和54年にアメリカ、カナダ産のベルジアン種とペルシュロン種を55頭を購入するいきさつが詳しく書かれています。

 購買担当者は全米中を巡り、カナダのカルガリーやトロントにも行って、共進会やショー会場で良馬を物色したのですが、我慢して数頭買うレベルで必要な数を確保することに苦心します。結局アイオワ州とインデアナ州でアーミッシュの集団から古いタイプのベルジアンを40頭購入したとあります。アーミッシュについては詳しくはWikipediaなどをご参照ください。宗教上の理由から、1980年代でも(おそらく現在でも)モータリゼーション化が進まず、馬を大事な動力として生活をしている人々です。

 アーミッシュは農耕用には重種を主体に、交通や輸送には軽種および中間種、また重種との交雑種を使用しているそうで、彼らが好んで飼う古いタイプのベルジアン種は骨量と幅があります。この当時一般に飼われていたベルジアン種やペルシュロン種はモダンタイプと呼ばれ、足長で幅の無いものが多く日本のばんえい競馬には全く不向きだったようです。そしてこの時アメリカで購入してきたペルシュロン種は生産者には不評だったようで「フランス産に比べて骨量がなく肢が長いのが気に入らなかったのであろう…」とあります。

 私の推測でも当たらずとも遠からず。「大きくて幅と骨量があり、脚が長くない」これこそがばん馬の良馬として、購買者が探し求めた馬でした。


注記:旧馬齢での記録は、現在の馬齢に置き換えて記載しています。

参考資料と写真提供

・ばんえいスタリオンズ 田島芳郎著
地方競馬全国協会機関広報誌「ハロン」1997年5月号~1998年5月号連載

★ばんえい DRAFT RACE
市営協議会会報 vol.2~19

・北海道種雄馬名鑑 思い出の名馬三十年史 

・日本馬事協会 登録馬情報 サイト

私設ばんえい競馬資料館 サイト
こちらのサイトは父系、母系、五代血統表等をわかりやすく編集してあります。ばん馬の血統について詳しく知るならココ!というサイトです。
別館のブログでも秀逸なコラムがたくさんあって、ばんえい競馬をより詳しく知りたい方にはおすすめです。
トップにもリンクバナーを貼らせていただいたのでぜひご覧ください。

・ばんえい競馬における第二障害の登坂運動の画像解析と競走成績に影響を及ぼす要因について 北海道畜産学会報,44:47-51
http://ir.obihiro.ac.jp/dspace/handle/10322/2995
2002年3月 北海道畜産学会
世の中マニアックすぎる研究論文もあるものだなと…こちらは非常にシンプルに要約すると重量が重くなると腰を低く落としてソリを引き上げる必要がある。というもの。
「重心が低い方が高重量の登坂に向く」と書く根拠にしています。

・「輓系馬の体型と能力に関する調査報告書」(1994年3月 社団法人日本馬事協会)
※こちら1995年にJRA図書室に寄贈された報告書なのですが、なかなかすごいです。見つけた時にウキウキで全ページコピーとりました(笑)
クラス別年齢別性別に事細かに体測した数値を比較検討してあるという…マニアにはたまらない報告書です。今取ったら数字は全然違うものになるんだろうな…と思います。

蹄跡(つめあと)(昭和58年 他起動馬産史編集委員会)

種牡馬写真提供 ばんえい十勝
種雄馬の写真はばんえい十勝広報様よりご提供いただきました。
掲載写真については、ばんえい十勝広報までお問合せ下さい。

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