ジャンデュマレイ~速く、大きく、美しく。ばん馬の脚とスピードを伸ばしたベルジアン種

※写真の無断転載は厳禁です。よろしくお願い致します。

ジアンデユマレイ Jan du Marais
体高180センチ / 胸囲240センチ / 管囲30.0センチ
ベルジアン種 米国産 1971年生 1974年輸入
父サニーファーサー(Sonny Farceur) 
母マーキゼットシュープレムドファーサ(Marquisette Supreme de Farceur)
母の父コンケラー(Conqueror)

意欲的に第三の品種を求めた時代
十勝農協が輸入した種雄馬

ジャンデュマレイの写真を見た時に最初に思ったのは、ああ、大きくて脚が長いなぁ!ということ。これぞテキストで読んだベルジアン種のイメージそのものです。二世ロッシーニより体高が高く、鉄鯉よりも胸囲が広い。まさしく大きな第三の品種です。

 実はもう一枚カラーの写真もお借りしています。後肢が流れているので、脚の長さが良くわかるように、トップ画像はモノクロ写真を使用しましたが、カラーもぜひ見ていただきたいのです。ベルジアンらしい輝くような美しい尾花栗毛、そしてよく見ると、前髪の編み込みに星条旗をイメージしたカラーを使っていて、From USA! と主張しているのがわかります。新しい馬を欧州ではなく北米から連れてきたんだ!という意気込みを感じるのです。

 1975年(昭和50年)4月発行の市営協議会会報に「アメリカ輸入馬視察」という小さなトピックス記事があります。1974年の10月に十勝農協畜産部の役付職員が、早来にある橋本牧場と壮瞥町の森牧場を訪問し、米国から輸入したベルジアン種とクライスデール種、そしてアメリカンペルシュロン種などを視察した。というものです。

 この年はマルゼンストロングホースが草競馬で無双し、森牧場のオーナーがベルジアン種とクライスデール種の持込馬(受胎した繁殖牝馬が日本で産んだ馬)をばんえい競馬に出走させて話題になっています。ばんえい競馬界が新馬種に注目していた時期でした。

 そして同年に、十勝農協も北米からベルジアン種の種雄馬を購入しました。これがジャンデュマレイです。職員が北米に買い付けに行ったものの、なかなか良馬に巡り合えず困っていたところを、カナダ・ベルジアン協会の副会長が持ち馬を販売してくれた…と田島氏が書かれたばんえいスタリオンズでは紹介されています。
 カナダで購入した馬ですが、生産者は米国のエル・ロイ・ブラス氏。マルゼンストロングホースと同じ生産者です。ジャンデュマレイはマルゼンストロングホースと同じ牧場で同じ年に生まれた馬でした。

 後に大成功を収めた2頭のベルジアン種雄馬が、同じ牧場で同年の生産というのは、何か要因がありそうです。おそらくこの牧場の馬が、ショーホースとしてスタイリッシュに改良が進むベルジアン種の中で、ちょっと流行遅れで、第二次世界大戦前の農耕馬の血を良く残していたこと。そして二頭ともかなりインブリードの強い、古風なベルジアン種の遺伝子を濃く受け継いだ馬だったことが、ばん馬の種雄馬としてよかったのだと思います。
 ベルジアン種が大成功した…というより、米国のエル・ロイ・ブラス氏の生産するベルジアン種が大成功した。ということかもしれません。

 実際、同時期に持ち込まれたクライスデール種は、ばん馬の種雄馬として成功していません。大きいけれど、スタイルが良すぎる(脚が長すぎる)のはソリを曳くのに向かなかったのではないかと推察します。同引きが水平になる馬車ならば、足が長くて歩幅も大きい方が見た目も美しいですし速度もあると思うのですが、地面から同引きの角度がつく鉄橇は重心が低いほうが力が効率よく伝わります。坂道を曳き上げるならなおさらです。

 ジャンデュマレイも脚長だと思いますが、従来のペルシュロンやブルトンと比較しての話で、古風なベルジアン種とペルシュロン、ブルトンの混血ぐらいまでが、ばんえい競走馬として活躍できる許容範囲だったのではないでしょうか。

 ジャンデュマレイの種雄馬成績は下記の通り

■リーディング 
※1989(平成元年)から資料の年齢区切りが変更になっています。
1971~1988(2歳/3・4歳/5歳以上)
1989~(2歳/3歳以上/総合)

2歳リーディング:1986年~87年、1991年
3・4歳リーディング:1988年
3歳以上リーディング:1990年~1994年
総合リーディング:1988年~1994年

主な産駒(生年)
●リュウタカラ(1976)
イレネー記念、ポプラ賞、ナナカマド賞
トカチホシ(1977)
ホクレン賞(2歳重賞。現在は無い重賞です)
リュウハヤテ(1978)
ポプラ賞
ナイスヒメ(1982)
ポプラ賞
ニューフロンテヤ(1983)
ばんえい記念、イレネー記念
カツラシンザン(1984)
帯広記念
キタノハヤブサ(1985)
北斗賞、旭王冠賞、ポプラ賞
レイショウ(1986)
ナナカマド賞
グレイトタイショウ(1989)
ホクレン賞

血統登録馬数 1030頭 繁殖牝馬335頭 種雄馬88

 主な産駒を見てもわかる通り、産駒は2歳重賞から活躍しています。今回あえてレースの格順ではなく時系列で羅列してみました。
 産駒が世代重賞から活躍することで、繁殖牝馬の質量が上がり、種雄馬としてキャリアを重ねるごとに古馬の実績が付いてくる…他の成功種雄馬と同じ軌跡をジャンデュマレイもたどっています。

 ばんえい競馬ではまず「能力検査」を通過しなければ始まりません。何頭送り出し、何頭が能検を通過したか?それが新種雄馬の評価になります。そのため、ある程度の早熟性は常に求められます。その点ジャンデュマレイは早熟性に優れていて、初年度産駒は7頭中6頭が能力検査を通過し、その中からリュウタカラ(ナナカマド賞、イレネー記念)を出し、一躍人気種雄馬になりました。
 そして6年連続総合リーディングという素晴らしい種雄馬成績を残します。2歳、3歳以上での世代別リーディングも複数年獲得しており、早熟性も成長力も兼ね備えた万能の種雄馬であることを裏付けています。

 総産駒数は今まで紹介したどの種雄馬よりも多く、それだけ多くのジャンデュマレイの血は広く浸透しました。

直系種雄馬は世代戦で大活躍
母の父としても名種牡馬を輩出

 直系のサイアーラインで、現在の活躍馬に繋がっているのは、ニューフロンテヤ~カネサスピード~カネサブラックのラインと、センショウリ~フジエーカン~インフィニティーのライン。
 カネサブラックインフィニティーとともにばんえい記念を勝った名馬で、今の世代重賞戦で活躍する馬たちの父となっています。残念ながら両馬とも世を去りましたが、カネサブラックにはすでに柏林賞を勝ったジェイワンが後継種雄馬となり、今年産駒がデビューしています。今後キングフェスタも父系を繋いでいくことと思います。インフィニティーも6世代と世代数は少ないものの、十勝管内の供用で産駒数は多く、今後種雄馬になるような逸材が何頭もいます。また、インフィニティーはジャンデュマレイの3S×3Dという非常に濃いインブリードを持っていて、それだけ強くジャンデュマレイの血が産駒たちに伝わっていくはずです。

 また、ジャンデュマレイは母の父として、名種雄馬ダイヤテンリュウを送りました。ばんえい競馬で最も有名な繁殖牝馬、トツカワの父というのはそれだけで偉大です。
 ダイヤテンリュウ系の種雄馬たちを通じても、ジャンデュマレイの血は広がっていくことと思います。

 面白いのがマルゼンストロングホースミハルを通じでウンカイという大種牡馬を送り、ジャンデュマレイトツカワを通じてダイヤテンリュウという大種牡馬を送り出したこと。いずれもベルジアンの「第三の血」が母の父として名サイアーラインのブースター的な存在となっています。

【おまけ】インフィニティーはジャンデュマレイの3S×3Dという強いインブリードがあり、コウシュハウンカイとフジダイビクトリーにはマルゼンストロングホースの3S×3Dというやはり濃いインブリードを持っています。偶然かもしれませんが濃いインブリードで活躍馬を送り出したところも、この2頭は似ています。

ジャンデュマレイの
インブリードを持つ
現役オープン馬

8月11日現在のオープン馬の中で、ジャンデュマレイのインブリードを持つ馬を紹介します。位置の読み方は今までと同様です。S数字=Sire(父方)の数字代前 D数字=Dam(母方)の数字代前 ×でつながっている場合は複数持っています。それぞれ馬名に日本馬事協会の5代血統表ページのリンクを貼りますので、詳細を知りたい方はリンク先をご覧ください。
メジロゴーリキ D5×D5
アアモンドグンシン D3×D4
ミノルシャープ S4×D4
マツカゼウンカイ S5×D5
サクラヒメ S4×D4×D4
キングフェスタ S4×D4
コマサンブラック D4×D5

 その他のオープン馬もインブリードは無いもののほとんどの馬が5代以内にジャンデュマレイの血を持っています。
持っていない馬はキタノユウジロウ、ヤマトタイコーの2頭のみです。

 これで種雄馬の紹介は4頭目ですが、鉄鯉とロッシーニとマルゼンストロングホースとジャンデュマレイ、これらのうち、複数のインブリードを持つオープン馬が数多くいます。例えばキングフェスタなどは鉄鯉S5×S5×D5・二世ロッシーニS5×D5・ジャンデュマレイS4×D4…といった具合です。

 主流血脈と言えばそうなのですが、世界でここにしかない競馬ということは、生産頭数も決して多くはなく、また一場開催というさらに限られた条件の中、活躍馬の配合を繰り返すことで、血統の袋小路になって行く恐れがあります。

 家畜改良センターが輸入しているブルトンとペルシュロンの純血種との配合や、古い血統の掘り起こし、新たな馬の導入(近年アメリカンペルシュロンの導入などの話も聞きます)等、様々な形でアウトブリードを作ることが、今後必要になるのではないかと思います。新馬種に目を向けて色々な品種の導入を試みていた、70年代の先駆者のパワーやチャレンジ精神がもう一度必要な時に差し掛かっているのかもしれません。

参考資料と写真提供

・ばんえいスタリオンズ 田島芳郎著
地方競馬全国協会機関広報誌「ハロン」1997年5月号~1998年5月号連載

★ばんえい DRAFT RACE
市営協議会会報 vol.2~19

・北海道種雄馬名鑑 思い出の名馬三十年史 

・日本馬事協会 登録馬情報 サイト

私設ばんえい競馬資料館 サイト

種牡馬写真提供 ばんえい十勝
種雄馬の写真はばんえい十勝広報様よりご提供いただきました。
掲載写真については、ばんえい十勝広報までお問合せ下さい。

※数え間違い、引き写しミスなど調べもので間違いがあるかもしれません。ご指摘ありましたら確認・修正いたしますので何かありましたら「お問い合わせ」フォームからメールをいただけますと幸いです。