ばん馬こぼれ話 vol.3

騎手の手綱さばきと利き手の関係

  ばんえい競馬の馬の追い方は独特です。手綱をムチ替わりに使うのですが、長い手綱の後端を重量箱の把手に括り付け、手綱の余分を輪にして利き手に持って追います。イラストに描いていて思ったのですが、騎手の長手綱はホントに頭がこんがらがります!よく絡ませずに手綱を振るえるものだなあと感心します。手綱の端を使う方が遠くまで届きそうだし、使いやすそうな気もするのですが。(足元に手綱を結わくと足元こんがらがりそう)規約で手綱の端で馬を打ってはいけないと決められています。
 このひたすら絵描き泣かせな追い方だと利き手側を強く打つ形になるので、ばん馬たちは通常右側から追われることが多くなります。そこで初めて、もしくは久々に左利きの騎手に乗り替わると、いつもと逆の側から刺激が入り反応が良くなるので好成績につながる……と言われています。

事実?それとも都市伝説?

 現役騎手の左利きは船山蔵人騎手一人。では船山騎手に乗り替わると馬が変わるのか…。実はかなり昔の記事ですが、船山騎手のジョッキーインタビューで、この質問に対してご本人は否定的な回答をされていました。それを読んだ時は、やっぱりこれは都市伝説的なものなんだろうな。話としてはよくできているけど…と思っていました。
 でもあえてこの都市伝説的あるあるをイラストにしようと思ったのは、船山騎手がよく穴をあける騎手だというデータが掘り起こされたからです。2020年4月20日発売号の週刊競馬ブックに掲載された、ばんえいの穴馬券術という企画記事(オッズパークの記事広告)の中で、穴をよくあける騎手として船山騎手の名前が挙がっていました。
 船山騎手の技術なのか、サウスポーのおかげなのか…実際はわかりませんが、ともかくも人気薄を持ってい来る騎手だということは数字上で裏が取れましたので、もしかするとサウスポーには何らかの効果効能があるのかもしれません。

奇妙な追い方の背景

 ばんえい競馬は動物虐待ではないか?去年の今頃能力検査の中継からネットで炎上し、大問題になりました。おそらく今でも一部の動物愛護団体では継続中の大問題…なのでしょう。
 事の是非を門外漢の私があれこれ言うのは非常に怖くもあり、わざわざこの問題をコラムに書かなくてもいいのでは?と自分でも思うのですが…このイラストコラムの発端となる「手綱を輪っかにしてムチの様に使って追う独特のスタイル」はこの問題とも少々関わりがあるので、あえて書き足しました。
 そもそも、「ばんえい競馬が残酷に見える」問題はばんえい競馬創成期のころからあった話なのです。
ちょっと長いのですが私の愛読書、ばんえい競馬のイラスト歴史書「ばんえいまんがどくほん」(北海道市営競馬協議会発行)から引用すると、

【草創の頃はばんえいにも鞭を使わせるべきだ、イヤただでさえ重い荷物を曳かせる競走だから残酷に見られる。使わせるべきではないと、両論あってなかなか決まらなかったが、遂に鞭党が勝って野砲兵ばん馬の駄馬鞭を使うことになった】

とあります。(実際には鞭がすぐ壊れて補充もままならず、鞭の使用は1開催限りだったそうです)
 紆余曲折あり、手綱で打つことが許されるようになったのは昭和40年からです。この時点で手綱の後端は重量物の把手に括り付けることもルール化されました。

【この方法なら「打つ力」も大きく制限されべん打は馬の条件反射を刺激するにとどまり、痛さの効果はうすく、残酷にはならないという結論だった。】

と書かれています。これらの記述を読むと創成期からずっと「残酷」「虐待」という見え方に対して主催者が苦慮していたことがわかります。ばんえい競馬がレジャーとして公認されていくためには馬を虐待するレースではないと、周囲に理解してもらう必要があったのだと思います。
 
 サウスポーの騎乗が穴をあけるという話の背景には、いかにしてばんえい競馬を残酷に見せないか…という配慮があります。ネットを通じて北海道民の娯楽から全国区の娯楽に成長しようとしている昨今、やはり同じような過程をもう一度通らなくてはいけないのだな…と昨年の炎上を見ていて思いました。
 60年以上も前から、ばんえい競馬という競技の持つ"業"は変わっていないなぁと思わされます。そして業を抱えつつ70年近い歴史を重ね、これからも様々な問題と向き合いながらも重ねていけるものと信じています。