トップホースの父系を追う~アオノブラックのサイアーライン Vol.4~

 カズミノルからは4頭の後継種雄馬が登録されました。そのうちの1頭がミノルキンショウ。ミノルキンショウはわずか2年しか供用されておらず、産駒も17頭。このうち繁殖馬となって、競走馬を送り出した産駒はわずか2頭。
 しかし、この2頭は素晴らしい成績を収めています。ミノルキンショウがつないだ血とはどんなものだったのか…アオノブラックのサイアーヒストリー第4回です。
 なお、今回、色々だいぶ脱線しております。何しろ推しの血脈なもので…よろしければお付き合いくださいませ(笑)。

わずかな産駒が
活躍馬を輩出した
逆転の種雄馬、ミノルキンショウ

ミノルキンショウ
半血種 鹿毛 音更産 1993年生
父カズミノル(ペルシュロン種) 
母 マルゼンプリンセス(ベルジャン種)
母の父マルゼンストロングホース(ベルジャン種)  


2004~2005年
十勝音更町にて供用
【五代血統表】(リンクを貼っています)

競走成績
174戦19勝2着16回3着20回
帯広2勝、岩見沢3勝、旭川10勝、北見4勝
勝利時の斤量 540㎏~670㎏
勝利時の馬体重 847㎏~1012㎏

種雄馬成績
血統登録数 17頭
種雄馬登録数 1頭
種雌馬登録数 3頭
※日本馬事協会 登録馬情報より集計

主な産駒
ケンジュオー<2005年生 鹿毛 牡> 135戦17勝 種雄馬 アオノブラック(重賞12勝)、ゴールドハンター(はまなす賞、柏林賞)バウンティハンター(はまなす賞)の父
タラジロウ<2005年生 鹿毛 牡> 77戦12勝
デラックプライム<2006年生 青毛 牝> 26戦1勝 種雌馬 サツキヤッテマレ(紅バラ賞、黒ユリ賞3着)の母


ミノルキンショウの競走成績

 ミノルキンショウは1995年にデビューし、2003年の10歳までコンスタントに走って19勝をあげました。引退レースは2003年の2/18日。710㎏の重量で走っていたところを見ると、今でいうB1あるいはA2クラスだったようです。父とは違い旭川の勝ち鞍が一番多く得意としてました。高重量には対応できなかったようで、勝ち鞍の最高重量は670㎏まで。19勝のうち4~6月までに12勝を挙げ、1月~3月には勝ち鞍がありません。年度始めの春先によく走るところは父カズミノルとよく似た傾向を持っていました。
 重賞出走もなく地味な競走成績と言わざる得ません。種雄馬にはなったものの、期待値が高い馬ではなく、わずか2年しか供用されませんでした。

ワールドワイドな血統構成

 特筆すべき競走成績や馬格ではなかったミノルキンショウですが、血統は興味深いものがあります。父カズミノルはタンブー、ロジ、ボルール、ウルバンといった仏国産ペルシュロンの血を受け継ぎ、母マルゼンプリンセス(1990年生 栗毛)は北米産ベルジャンのマルゼンストロングホースと、同じく北米産ベルジャンのビツクスベルフアサーから生まれています。仏米を融合したワールドワイドなものです。マルゼンプリンセス自身は競走馬登録はあったものの未出走で競走馬としての成績はありません。

 ミノルキンショウの母系祖母、ビツクスベルフアサー(Vickie Bell Farceur 栗毛 1977年生)は北米のインディアナ州で生まれています。同馬は、同じくベルジャン種の名牝、ヂアンスジユル(Jan's Jewel 栗毛 1978年生 オハイオ州産)と一緒に輸入されています※。ヂアンスジユルはマルゼンストロングホースと交配し、マルゼンバージ(ばんえい記念2勝)を生みました。偉大なマルゼンバージの活躍は少なからずビックスベルファサーの株を上げたのではないかと思います。ビックスベルファサーの牝系はマルゼンプリンセス、ミノルキンショウを含め11頭の馬が繁殖馬になっています。

※1979年3月~4月に2頭を掛川富夫氏が購入している記録が米国ベルジアン協会サイトにあります。

輸入ベルジャンの濃密な血

 以前ブログで紹介しました米国ベルジアン協会サイトで馬名を検索すると、輸入されてきた馬達の産地、生産者、購買履歴、そして血統を簡単に見ることができます。
  輸入ベルジャンのたちの産地はアイオワ州、インディアナ州、オハイオ州、ミシガン州とミシガン湖の周辺です。といっても、4州もまたげば広大でこの一帯とくくれるものではないとは思いますが…ざっくりとアメリカ中西部の東寄り。この一帯が日本輓系種の祖先となったベルジャン種の故郷です。

 マルゼンストロングホース(1971年生 栗毛)、ジャンデユマレイ(1971年生 栗毛)の他、コンエレガント(1973年生 栗毛)、コーネルライス(1986年生 栗毛)がベルジャン種の成功種雄馬と言えると思います。この4頭の血統を5代ほどさかのぼって比べて見ると……まるで神経衰弱?!と思うほど血統表の中に同じ馬を見つけることができます。

 例を挙げると、コンエレガントとジャンデユマレイは三代母は同じで、そのコンエレガントの兄弟(この兄弟は父は違いますが父系祖父は同じです)2頭は種雄馬で、コーネルライスの母の母系祖父、父系祖父といった具合です。ああややこしい…。
 マルゼンストロングホースは前述三頭ほど血は近くないのですが、彼らの血統表で見かけるコンケラー(Conqueror)、ジェイファーサー(Jay Farceur)、エレガントデュマリスⅡ(Elegant du Marais Ⅱ)といった種雄馬を3代~5代のうちに見つけることができます。今のばんえい競走馬の5代血統表をみているとどこかに二世ロッシーニや鉄鯉、ジャンデユマレイがいるようなものなのかもしれません。
 ばんえい記念の勝ち馬マルゼンバージが強烈なインブリード馬(ペンステートコンケラー Penn State ConquerorのS3×M4、全姉妹がS3×M4×M4)だということは、田島さんの著作で読んでいましたが、さもありなん。もともと輸入している馬の血が全般的に濃いのです。全兄弟や全姉妹が五代血統表に入りつつ、その全兄弟の父馬が5代血統表に入っている…という状況は珍しくありません。ビックスベルファサーも全姉妹が父方の4代前と母方の4代前にいます。
 
 理想の体格の馬を集めたら結果的に血統が似たのか、それともジャンデユマレイとマルゼンストロングホースが成功したので近しい血統の血を集めたのかどちらかはわかりませんが(おそらくコーネルライスは生年が少しずれるので後者だと想像します)……結果、日本に持ってきた北米ベルジャンの多くは掛け合わせるとインブリードができるという状況になっています。

 マルゼンプリンセスの母も同様です。マルゼンストロングホースとビックスベルファサーの2頭の5代血統表に下記のような共通の種雄馬、種雌馬を見つけることができます。

共通の種雄・種雌馬(青字:牡/赤字:牝)マルゼンストロングホースビックスベルファサー
コンケラー
(Conqueror)
 
S3S5
ケンフルースジェイファーサー
(Kenfleur's Jay Farceur)
M3M5×M5
マスターファーサー
(Master Farceur)
M5×S5M4×S5
レスターファーサー
(Lester Farceur)
 
S5S4
リサ(Lisa)S4S4
【S:父方 M:母方 数字:何代前にあるか という風に読みます×は複数あることを差します】
それにしても…神経衰弱だ~(><)…見落としがあったら(きっとある)ごめんなさい…


 マルゼンプリンセスの代から数えるとだいたい4~6代前のインブリードなのでマルゼンバージのような強烈さはありませんが、かぶっている馬が5頭もいることを考えると、それなりな近親交配と言えると思います。ちなみに、リサ(Lisa)は先に登場したペンステートコンケラー(Penn State Conqueror)の母系祖母です。マスターファーサージェイファーサーケンフルースジョイファーサーは祖父、父、子になります。なお、ジェイファーサーはジャンデユマレイがS3×M4で持っています。
……ごめんなさいどう書いてもややこしいですよねぇ…潔く全部の5代血統表作ればよかった…。

良姫とミノルキンショウ

 さて、アオノブラックのサイアーヒストリーなので、ちょっと?!寄り道になってしまいますが、個人ブログですのでどうかお許しを。ミノルキンショウの数少ない産駒の中に、私イチオシのマルホンマユヒメさんの兄と姉がいるのです。それがタラジロウデラックプライム。どちらも懇意にしている本寺牧場の生産馬です。
 もともとミノルキンショウはそれほど期待値の高い種雄馬ではありませんでした。音更で開業した種馬屋さんが開業時に導入した馬で、お付き合いのある種馬屋さんの熱心な勧めもあって良姫にミノルキンショウを配合したのだと伺っています。
 ただ、血統表を見ると良姫にはマルゼンストロングホースの強いインブリード(S2×M3)があるので、ミノルキンショウを配合すると、産駒にはマルゼンストロングホースのS3×M3×M4という強いインブリードが発生します。そこにはマルゼンストロングホースの血を集める本寺さんの計算もあったと思います。

 生まれたタラジロウは本寺牧場最初の活躍馬になりました。翌年同じ配合で生まれた牝馬がデラックプライムサツキヤッテマレマルホントーマスのお母さんです。サツキヤッテマレは2歳時から活躍して、先日も4歳牝馬OP紅バラ賞を勝ちました。マルホントーマスは現在5戦3勝で今後期待の2歳馬です。良姫系は本寺牧場の基幹牝系に成長しています。

 そしてサツキヤッテマレとマルホントーマスの間に生まれているのがグレイトアマゾンを父にもつマルホンキンカ(29戦7勝)です。グレイトアマゾンはブラックジョージの産駒唯一の種雄馬です。マルホンキンカは本寺さんが意図的にカズミノルを集めた配合です。
 というのも、タラジロウがブラックジョージ産駒のホクショウジャパン(ヤングチャンピオンシップ、ばんえい菊花賞2着)と同期だったので、一緒に走っていたホクショウジャパンのレースぶりを見て、ブラックジョージという種雄馬の魅力を感じ、その父であるカズミノルの血を残しておきたいと思ったのだそうです。マルホンキンカはデラックプライムの後継として、楓朝のサイアーストーリーを別の形で繋ぐ馬になると思います。
 ばん馬の場合、インブリードの多い配合だと馬体が小さく出る傾向があるので、キンカも同世代の他馬と比べる小柄です。しかし抜群の障害力で現在7勝を挙げて頑張っています。そして彼女の本領はおそらく繁殖にあがった時。マルホンキンカの血統は古風なものなので、現在隆盛の種雄馬の血脈と合わさると、メムロボブサップのように時間軸のずれによるアウトブリード出来上がる……はずです。少なくとも本寺さんはマルホンキンカの配合に様々な可能性を考えているのだと思います。 

デラックプライムと2頭の子供

撮影させてもらった生まれて一か月ぐらいの
サツキヤッテマレとデラックプライム
デラックプライムは子出しがよくて子煩悩な母馬でした
生後1週間ほどのマルホンキンカ
マルゼンストロングホースやジャンデユマレイ、楓朝
といった往年の名血のインブリードを持っています

 

 なお、タラジロウ、デラックプライムの弟妹たち、つまり良姫の子供たちのその後活躍は皆様ご存じの通りです。父カネサテンリュウからラッセルクイン(166戦22勝)、ヤマトジャパン(222戦28勝)、父アローファイターからマルホンリョウダイ(ポプラ賞2着)、マルホンリョウユウ(ばんえい大賞典)と全く違う血統構成の父馬からそれぞれ活躍産駒がでています。父馬の良さを引き出すタイプの繁殖なのかもしれません。マルホンマユヒメは良姫の最後の産駒。偉い兄姉に続いて活躍してほしいです。そして偉大な良姫の良き後継になってくれれることを願っています。

 ミノルキンショウの産駒の中で、次の世代に血を繋いだもう1頭、それがアオノブラックの父ケンジュオーです。(次回最終回、ケンジュオーに続く)



※競走成績は2023年10月23日現在

参考資料

 種雄馬のコラムについては以下文献やサイトをもとにテキストを書いています。★印のついているものは現在ネット上から閲覧できるものでリンクを貼っています。
大分時代が下ってきたので調べものがネットベースになってまいりました。

日本馬事協会 登録馬情報 

BELGIAN Draft Horse Corporation of America

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地方競馬全国協会発行