トップホースの父系を追う ~メムロボブサップのサイアーライン Vol.3~

 武潮はサカノタイソン以外、これといった牡馬の活躍馬を出しませんでした。12頭いる武潮産駒の種雄馬の中で、サカノタイソン以外にサイアーラインを繋いだのは、青森で供用されていた平美でした。メムロボブサップのサイアーヒストリー第3回です。

ナリタボブサップまでと思いましたが…
あまり長くなってはと思いまして(笑)

青森で供用された平美

 家畜改良センター十勝牧場は内国産馬改良のための原種を生産し、全国に種雄馬を供給する日本唯一の官営牧場(独立行政法人)です。武潮の初年度産駒として家畜改良センター十勝牧場で生まれた平美は青森で供用されました。産駒の多くが上北郡七戸町で生まれており、産駒の中で種雌馬として登録がある馬は青森県七戸畜産農業協同組合が所有しているところから、おそらく七戸農協に貸付されたものと推測します。(裏が取れずすみません)

 平美が残した産駒は、4世代で血統登録馬数は18頭。競走馬登録があるのはわずか頭、繁殖登録があるのは頭で、そのうち種雄馬登録は華旭ただ1頭です。七戸は馬力大会で有名な町です。平美は東北の馬力大会用の馬を生産するために、青森で供用されていたのだと思います。

 およそ商業競馬と縁遠い様に見える平美ですが、血統表を眺めてみるとばんえい競馬で活躍した仏国産ペルシュロンの血を集めたような種雄馬です。(5代血統表リンクを貼りました)
 母の父楓石は楓朝にならぶタンブーの代表産駒で、楓朝、楓石を通じて、タンブーとロジのインブリードを持っています。そして祖母の父ペルヴォンシエーは1971年の3歳以上リーディング2位、翌72年は3位の実績があります。
 平美はロジ、ペルヴォンシエー、タンブー、ウルバンと60年代後半から70年代にかけて、ばんえい競馬のリーディング上位に名を連ねた仏国産ペルシュロンをふんだんに持った種雄馬でした。

ナリタボブサップの父、華旭

華旭(かきょく)黒鹿毛 1993年生
父:平美 母第:一旭姫(母の父カチサカエ)

 華旭は平美の産駒から唯一種雄馬になった馬です。実は以前から生産者の方に、「華旭は、華旭は東北の草ばん馬に使われていたのを連れてきたんだよ。」と聞いたことがありました。わざわざ北海道まで連れてくるということはさぞや馬力大会で無双をしていたのではないでしょうか。残念ながら馬力大会での華旭の戦績は知りようがないのですが…。

 華旭の母、第一旭姫の血統を見ると、父カツエイは1974年のイレネー記念3着、翌年、第1回のばんえい大賞典2着馬と世代戦で活躍した競走馬です。その父カチサカエは1963年のばんえい記念馬※で1970年代後半~80年代初頭のリーディング上位に名前を連ねる種雄馬ででした。そして母の父キリンは70年代後半~80年代初頭に活躍した名種雄馬ボルールの産駒で、★競走馬名キリンゴーとして1955年、1957年のばんえい記念を制しています。★
 華旭には古風ではあるものの、いずれもばんえい競馬で一時代を築いた名馬、名種雄馬の血が流れていました。

 今回、華旭について調べるにあたり、ナリタボブサップの生産牧場の方にもお話を聞くことができました。華旭も武潮同様、気性が荒かったそうです。

 そして、華旭の産駒は脚長で大きく出るのだそうで、ナリタボブサップも出産が大変だったと伺いました。お産にリスクはあるのですが「大きい」ことはばんえい競走馬の正義。ナリタボブサップも1200㎏を超える馬体まで成長しました。"産駒が大きい"という評判が、華旭が競馬場で走っていない青森から来た種雄馬にも関わらず、人気があった理由の一つだったと想像できます。華旭は1998年から供用され、6世代で300頭を超える産駒を残しました。

※NARでは正確な記録が残っている1968年のばんえい記念、トーホクイチから記載されています。しかし、それ以前にも「ばんえい記念」を冠したレースはあり、当時のトップホースが出走しています。私の手元にある田島芳郎氏の編まれた「日本競馬の歩<資料編>」では昭和27年からの勝ち馬の記録が掲載されています。

華旭の種雄馬成績
血統登録産駒313
種雌馬登録数29
種雄馬登録数

リーディング
2002年 2歳馬 8位
2004年 2歳馬 7位 / 総合11位

主な産駒
ナリタボブサップ<2002年生 鹿毛>:ドリームエイジカップ、ばんえいグランプリ、北斗賞、旭川記念、帯広記念、北見記念
ヤマノミント<2001年生 鹿毛>:259戦41勝(OP勝ち含む)種雄馬。
産駒にタイキン(ヒロインズカップ)、ドルバコ(クインカップ3着)
バレットドラゴン<1999年生 鹿毛>:207戦26勝
産駒にオオゾラシンスケ<2011年生 黒鹿毛>(224戦38勝。種雄馬)
ヒカルアサヒ<2004年生 黒鹿毛>:44戦6勝 黒ユリ賞2着、ばんえいオークス2着
タカラフクヒメ<1999年生 芦毛>:156戦13勝 黒ユリ賞4着
ピュアプリンセス<2000年生 鹿毛>:26戦3勝。ホクショウムゲン(イレネー記念他)の祖母
アユフジ<2001年生 鹿毛>:未出走。カイセドクター(はまなす賞)の祖母

★9/6日加筆修正いたしました。日本競馬の歩<資料編>ではキリンゴーとして掲載されていたためばんえい記念馬だったことを見つけられませんでした。1998年のハロン9月号のばんえいHistories Vol.4にキリン号→キリンゴーの記事がありまして…いやどっかでキリンって馬名見た記憶があったなぁ…とは思っていたのですが。知人にご指摘をいただいて気が付いた次第です。カチサカエにキリンといった昭和30年代の名馬の血を受け継いでいた華旭。まるでタイムカプセルの様な種雄馬です。


参考資料
日本馬事協会 登録馬情報 

・日本競馬の歩み<資料編>田島芳郎 著
2009年 ㈱サラブレッド血統センター発行

・北海道種雄馬名鑑 思い出の名馬三十年史

・種雄馬リーディングについては1971~88年までは市営協議会会報、
 1989年~2007年まではばんえい十勝より提供いただいた資料を参照しています。

ばんえいHistories Vol.4 田島芳郎 著
ハロン 1998年9月号 掲載

また、Vol.2同様、調べものや掲載情報について、可能な限り努力はしておりますが、抜けや誤りがあった場合はお問い合わせフォームからご指摘いただけますと幸いです。ご容赦とご協力をよろしくお願いいたします。