トップホースの父系を追う ~メムロボブサップのサイアーライン Vol.2~

 フランスからの輸入種雄馬ウルバンからメムロボブサップへとつながるサイアーヒストリー。2回目は孟潮武潮の紹介です。孟潮は家畜改良センター十勝牧場生産、そして武潮も同牧場で種雄馬となりました。ウルバンの父系が今に伝わるのは、家畜改良センター十勝牧場のおかげです。

黄色い背景のついた馬についての
紹介記事になります

 孟潮~武潮の説明の前に、家畜改良センター十勝牧場について簡単に紹介をすると、独立行政法人で国内唯一の官営牧場です。牛、羊、そして馬(重種馬と乗用馬用のアラブ種)の改良と増殖を行っています。一般の観光客も見学に訪れることができ、冬場の馬追い運動なども公開しています。リンクを貼りましたので詳細はHPをご覧いただければと思います。素敵な写真が多く畜産関係者ではなくとも見ていて楽しいサイトです。

 重種の改良を行っている牧場ですので、ばんえい競馬とは深い縁があり、現在もこの牧場出身の種雄馬や種雌馬から、ばんえい競馬の活躍馬が誕生しています。近年ではヤマトタイコーの父、ペルシュロン種の芯情(シンジョウ)やタカナミの母ブルトン種の后殊(ゴウシュ)などが挙げられます。  

 余談ですが、官営牧場の生産馬は音読みの漢字2文字が命名ルールです。詳細は鉄鯉のコラム(鉄鯉は家畜改良センター十勝牧場の前身十勝種畜牧場で生産されています)で触れております。よろしければご一読ください。
 以下記事では家畜改良センターと略します。

家畜改良センターの良血馬、孟潮

 孟潮は家畜改良センターの生産馬です。母の朝旦は大種雄馬楓朝の全妹になります。楓朝はメムロボブサップのライバル、アオノブラックのルーツに当たる馬で、1970年代後半~1980年代半ば、二世ロッシーニや鉄鯉ととともにばんえい競馬界を牽引した種雄馬です。鉄鯉と並んで十勝種畜牧場(現家畜改良センター)産で最もばんえい競馬界に影響を与えた種雄馬と言えます。兄の活躍もあり、朝旦の産駒の多くが種雌馬となって多くの産駒を残し、現在のばんえい競走馬にもこの牝系の活躍馬が多くいます。

 朝旦の娘、潮潤の牝系からはコウシュハハリアー(A2クラス)、ゴールデンペガサス(B1クラス ナナカマド賞2着)、ハマノダイマオー(B2クラス イレネー記念、3歳三冠、4歳三冠皆勤賞)が出ています。また、昨年度の黒ユリ賞で3着だったミュウの5代母潮瑞も朝旦の娘です。
 楓朝、朝旦の母の父ロジもまた十勝種畜牧場が所有していた仏国産ペルシュロンで、孟潮の血統はまさに家畜改良センターの歴史と言えます。(現役馬の格付けは2023年8月25日現在)

 孟潮は1980年に十勝管内に貸付され、音更町で供用されました。4年の供用期間の間に血統登録された産駒数は67頭いて、そのほとんどが音更町の生産馬です。競走馬として登録があるのはアキヒカリのみでした。
 産駒で種雄馬となったのは武潮とアキヒカリの2頭。アキヒカリ産駒の血統登録馬はわずか8頭で、いずれも繁殖馬登録が無いことを考えると、実質的な後継は武潮1頭です。

 血統的に大いに期待されて導入されたのだろうと思いますが、種雄馬としては大成しませんでした。しかし、後継の武潮は素晴らしい競走馬の父、母の父となります。

怪物サカノタイソンの父、武潮

1982生年 青毛 音更町産
体高175㎝
父孟潮(ペルシュロン) 母ヌヴェ(ペルシュロン) 

 
 孟潮は競走馬としての活躍馬を出すことはできませんでしたが、種雄馬武潮を送り出しました。

 武潮はミレニアムをまたいで活躍した怪物サカノタイソンの父です。サカノタイソンは、ばんえい記念2勝を含む重賞6勝、そしてホクショウマサルに破られるまで19連勝の連勝記録を持っていた名馬です。
 また、武潮は母の父としても重賞勝ち馬を送り出しています。ただ、重賞を勝った産駒はサカノタイソンのみで、武潮はなかなか当たらないけど当たると重賞を何勝もする大物を出す、宝くじのような種雄馬といった印象があります。

武潮の種雄馬成績
血統登録頭数:209
種雄馬登録頭数:12
種雌馬登録頭数:73

主な産駒
競走馬
サカノタイソン<1994年生 青毛>:ばんえい記念2勝、帯広記念、チャンピオンカップ、ポプラ賞、銀河賞

種雌馬
裕帝<1990年生 青毛>:キングシャープ(ポプラ賞等重賞4勝。ミノルシャープの父)の母
雪椿<1989年生 青毛>:サダエリコ(ばんえいダービー等重賞13勝。センゴクエースの母)の母


 武潮の来歴について、日本馬事協会にお問い合わせしたところ、家畜改良センターにもお問い合わせいただき、詳細を教えていただけました。そして貴重な写真をお借りすることができました。以下、それを元に記載いたします。

 武潮は官民を行き来した種雄馬でした。生産は音更町の民間牧場で、当時改良センターから十勝管内に貸し出されていた孟潮と、輸入繁殖牝馬ヌヴェを交配して生まれました。母ヌヴェは当時の仏国のペルシュロン協会会長の生産馬で、仏国の種雄馬のとても強いインブリード(テリブルS2×M2)を持った馬でした。
 
 当時、国内からも原種馬を買いつけていた改良センターが2歳馬で購入し、種雄馬として1985年から供用しています。気性の激しい馬でしたが、種付けはとても上手だったそうです。

 武潮の初年度産駒に、メムロボブサップの3代父の平美がいます。また、供用中は人工授精用の精液販売も行っていました。改良センター供用時代に池田町で生産されたサダエリコの母、雪椿はおそらく人工授精の産駒であろうとの事です。
 改良センターでは武潮産駒の種雄馬は保有せず、繁殖牝馬として多数残しているとのことです。キングシャープの母裕帝も改良センターから民間牧場への譲渡馬でしたので、今後、武潮の血を持つ改良センター保有の種雌馬から、また新たな活躍馬が誕生することがあるかもしれません。

 武潮は1991に改良センターから日本馬事協会が借り受け、上川生産連に転貸され、士別市で供用されました。サカノタイソンは士別市供用時代初期の産駒です。その後2000年に同じく士別市の民間牧場に飼養地と使用者が変わり、2002年まで種雄馬として供用されています。そして2006年2月に便秘疝になり、24歳で亡くなったようです。

サカノタイソンの活躍で、脚光を浴び、晩年になってから種付け頭数も少し増えたそうです。

ウルバンの系譜が生んだ怪物
サカノタイソン

1994年生 青毛 母サホロクイン(母の父ジャンデュマレイ)

 メムロボブサップの父系図から脱線しますが、ウルバンの系譜を語る上でサカノタイソンは外せません。

 武潮の代表産駒、サカノタイソンはウルバンのS3×M4というインブリードがあり、武潮の母系から楓朝、母サホロクインにはウルバンと同じくマイエンネ系ペルシュロンの血を持つムジークが入っています。(馬名に5代血統表のリンクを貼りましたのでご覧ください)
 大柄と言われるマイエンネ系のペルシュロンと、旧来のペルシュロンの合わさった3/4ペルシュロンの血にベルジアンのジャンデマレイが入った血統です。馬格が小さいブルトンの血が入っていません。その血は体格に現れます。
 サカノタイソンのレース出走時の最大体重は1227㎏。競走成績だけではなく体格もモンスターでした。
 種雄馬になって3世代しか産駒が残せなかったのが非常に惜しまれます。
しかし少ない産駒から、種雄馬としてスギノハリアーがその血を伝え、母の父として、牝馬重賞を全制覇したナナノチカラを送りました。

 なお、ナナノチカラはアキバオーショウの産駒です。メムロボブサップの母のピュアレディの父もアキバオーショウ。事例が少ないので言い切りは避けますが、武潮の系統はアキバオーショウと相性が良かったのかもしれません。

 次回は平美~華旭~ナリタボブサップと続きます。実は孟潮~華旭までは、ほぼ一子相伝の父系です。メムロボブサップの父系は、産駒の少ない種雄馬が多いばんえいならではです。
 はまなす賞を挟みますが、今しばらくお付き合いください。
また、Vol.1同様、調べものや掲載情報について、可能な限り努力はしておりますが、抜けや誤りがあった場合はお問い合わせフォームからご指摘いただけますと幸いです。ご容赦とご協力をよろしくお願いいたします。

メール取材、参考文献、写真や資料の提供について

  今回の記事を書くにあたって、日本馬事協会、およびナリタボブサップの生産者様、田島芳郎先生から多大なご協力をいただきました。そしてばんえい十勝様より今回も写真をお借りしております。記事制作にご協力くださいました皆様にはこの場を借りて厚く御礼申し上げます。

 種雄馬のコラムについては以下文献やサイトをもとにテキストを書いています。★印のついているものは現在ネット上から閲覧できるものでリンクを貼っています。そして購入できるものはURLを載せています。興味のある方はぜひご覧ください。

日本馬事協会 登録馬情報 

・日本競馬の歩み<資料編>田島芳郎 著
2009年 ㈱サラブレッド血統センター発行

・ばんえい競馬の仕組みと歴史(下)田島芳郎著
日本馬事協会発行「ホースメイト」No.52 2007年11月掲載 購入問い合わせ先リンク

・北海道種雄馬名鑑 思い出の名馬三十年史

・輓曳 これまでそして明日から ④ばんえい血統の問題点 田島芳郎著
週刊競馬ブック2007年2月11日号 掲載

写真提供:日本馬事協会
写真の使用に関しましては当ホームページのお問い合わせより、ご連絡ください。