トップホースの父系を追う ~メムロボブサップのサイアーライン Vol.1~

2023年ばんえい記念(筆者撮影)

 昨年度ばんえい記念を制し、今期重賞3連勝中(8/24日現在)、ばんえいグランプリ三連覇。もはや敵はいないのでは?と思えるほどの強さを見せつけているメムロボブサップ。
このスターホースの父系について調べてみました。久しぶりの種雄馬記事、相変わらずボリュームがあるので重賞戦記を挟みながら3~4回に分けて掲載いたします。お付き合いいただければ幸いです。


 

メムロボブサップの父系をたどっていくと、ナリタボブサップ華旭(かきょく)~平美武潮孟潮ウルバンとたどることができます。Vol.1ではメムロボブサップのサイアーラインの国内スタート地点。仏国産の輸入ペルシュロン種のウルバンについて紹介したいと思います。

メムロボブサップに連なる父系
まずはこれを眺めてから
以下のテキストにお付き合いください

マイエンネ系の名種雄馬 ウルバン

※写真の無断転載は厳禁です。よろしくお願い致します。

ウルバン 1964生年 青毛 仏国産 
体高177㎝/胸囲236㎝/管囲28.0㎝ 
1968~1978年幕別町農協、音更町で供用 
父イボワール(ペルシュロン) 母ラピット(ペルシュロン) 

 ウルバンは仏国産のペルシュロン種。ばんえい競馬最高の種雄馬、ペルシュロン種の二世ロッシーニとほぼ同時代に生まれて供用されています。(二世ロッシーニは1966年生、1969~84年供用)
 ばんえい競走馬が異なる原種を交配し、より大きく強く改良されていく過程の時代で、原種のペルシュロンが大いに活躍した時代の種雄馬です。
 ペルシュロン種として紹介しましたが、ウルバンはそれまで日本で供用されていたペルシュロンとは実質異なる品種でした。昨年ばん馬を作った品種紹介のコラムで記載しましたが、1960年代のフランスでは、衰退する近隣重種の品種を統合したため、ペルシュロンとして登録されるようになったマイエンネ種です。
 マイエンネ種は旧来のペルシュロンと比較すると大柄な馬が多かったため、数多く輸入されました。ウルバンも体高が177センチあり、純血のペルシュロン種としては大柄です。そして昔の生産者は青毛を好んだため、大柄で青毛のウルバンは人気があったことでしょう。血統登録数の多さを見ても察することができます。

■ウルバンの種雄馬成績
・血統登録・繁殖登録数

血統登録数140
繁殖牝馬登録数99
種雄馬登録数14
(日本馬事協会登録馬情報より集計)

・リーディング
1972年 総合10位、3歳2位 4歳3位
1973年 4歳6位
1975年 4・5歳8位
1976年 6歳以上3位
1977年 6歳以上5位
1978年 6歳以上2位
1979年 6歳以上3位
(市営協議会会報より)

・主な重賞勝ち産駒
イシカリハヤテ<1970年生 青毛>:イレネー記念※、シルバーカップ、北海道知事庄
トシクイーン<1973年生 青毛>:クインカップ 
※1972年のイレネー記念馬(NARは1973年の第五回からの記載ですがその前年の勝ち馬です)
(日本競馬の歩み<資料編>より)

 ウルバンは幕別町農協、音更町で10年間供用され多くの産駒を残しました。重賞勝ち馬は産駒数やリーディングの結果に比して少ないようにも思います。しかし多くの優秀な繁殖牝馬を残し、母の父としてはテンショウリ(ばんえい記念等)、ミドリゴゼン(ばんえいオークス・ヒロインズC・クインC等)イケズキ(ばんえい菊花賞)といった名馬を輩出しています。

期間限定の異系、マイエンネ種

 ウルバンがマイエンネ系であったことを知ることができるのは、競馬歴史家の田島氏の功績です。では、田島氏はどうやって輸入ペルシュロンの出自を知ることができたのか…お問い合わせしたところ、

「どの馬がマイエンネの系統なのかは、仏国ペルシュロン協会が発行した血統登録証を見ればわかります。登録番号が4桁ならマイエンネの系統で、6桁なら古来からのペルシュロンです。日本馬事協会に写しがあると思います。」

とご回答をいただくことができました。

 この回答を元に、日本馬事協会にお問い合わせしたところ、現在馬事協会の事務所に現存するペルシュロン種雄馬の仏国ペルシュロン協会の血統登録証の写しを送っていただけました。送っていただいた登録証の中で、4桁の登録番号が確認できたのは、1980年代の輸入ペルシュロンの登録証の3代前に1頭、2頭です。血統表記に4桁の登録番号を確認できたタンギーという種雄馬の血統登録書を見本で掲載いたします。

タンギーの仏国ペルシュロン協会の
登録証の写しです
母クララの父の両親が
4桁のマイエンネ系ペルシュロンです
(提供:日本馬事協会)

 品種統合され10~20年もたてば交配が進みます。そもそも数が少なくなったために統合されたマイエンネ系が、仏国ペルシュロン種の中で異種であったのは、品種統合後そう長くはなかったと思います。異種としてのマイエンネ系は期間限定のものでした。そしてその短い期間は、ちょうど日本のばん馬が競馬を目的として改良を進めているタイミングと合致しており、60年代後半~70年代にマイエンネ系の血を多く保持した馬を数多く輸入することができました。ウルバンはその代表的な存在だと思います。

 次回は孟潮~武潮について、紹介したいと思います。
また、調べものや掲載情報について、可能な限り努力はしておりますが、抜けや誤りがあった場合はお問い合わせフォームからご指摘いただけますと幸いです。ご容赦とご協力をよろしくお願いいたします。

メール取材、参考文献、写真や資料の提供について

  今回の記事を書くにあたって、日本馬事協会、およびナリタボブサップの生産者様、田島芳郎先生から多大なご協力をいただきました。そしてばんえい十勝様より今回も写真をお借りしております。記事制作にご協力くださいました皆様にはこの場を借りて厚く御礼申し上げます。

 種雄馬のコラムについては以下文献やサイトをもとにテキストを書いています。★印のついているものは現在ネット上から閲覧できるものでリンクを貼っています。そして購入できるものはURLを載せています。興味のある方はぜひご覧ください。

日本馬事協会 登録馬情報 

★ばんえい DRAFT RACE
市営協議会会報 vol.1~19

・日本競馬の歩み<資料編>田島芳郎 著
2009年 ㈱サラブレッド血統センター発行

・ばんえい競馬の仕組みと歴史(下)田島芳郎著
日本馬事協会発行「ホースメイト」No.52 2007年11月掲載 購入問い合わせ先リンク

・北海道種雄馬名鑑 思い出の名馬三十年史

・輓曳 これまでそして明日から ②ばんえい全盛時代 田島芳郎著
週刊競馬ブック2007年1月28日号掲載

写真提供:ばんえい十勝
また種雄馬の写真はばんえい十勝広報様よりご提供いただきました。
掲載写真については、ばんえい十勝広報までお問合せ下さい。

仏国ペルシュロン協会 血統登録書の写し提供:日本馬事協会