まずはイレネーから始めよう ~ばん馬の品種について~

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ばん馬の祖ペルシュロン種のイレネー号。
サラブレッドでいうところの三大始祖のような存在

 このサイトを立ち上げた時、やってみたかったことに一つに、ばんえい競馬の主流血脈を担う種雄馬(重種は種牡馬と言わず種雄馬と書きます)を紹介するコラムを書く。というものがありました。血統の話というと大げさですが、単純に今応援している馬たちにはどんな馬の血が流れているのか、それをお伝えできればいいなと思っています。 

 まずは品種の解説で第1回。2回目から5頭、近年の活躍馬の5代血統表を見るとインブリードをよく見かける種雄馬について、紹介していこうと思います。計6回。間に重賞データ予想をはさみますが、しばらく種雄馬のコラムが続きます。お付き合いいただければ幸いです。

ばん馬とはどんな馬か?

 種雄馬を紹介する前説として、まずはばん馬とはどんな品種から生まれたか…様々なメディアで紹介されているので、目にしたこともあるとは思いますが、改めましてここでおさらいです。

・ペルシュロン種(フランス原産)
・ブルトン種(フランス原産)
・ベルジアン種(ベルギー原産で北米で改良)

 ばんえい競馬に特化した目的で、この三品種の混血によって作られたのが「日本輓系種」いわゆる日輓種。これがばんえい競走馬のスタンダードです。
 
 この三品種に至るまでの変遷をざっくり紹介します。

 明治末期からペルシュロン種の導入がはじまりました。イレネー号は明治43年に購入され、44年より供用開始。これはサラブレッドの導入とほぼ同時期です。また、第二次世界大戦前はペルシュロン種と並んで中間種と呼ばれるトロッター種やアングロノルマン種なども大いに輸入されていましたので、8~9代とさかのぼればトロッターやアングロノルマンの混じったばん馬もたくさんいます。
 とはいえ、サラブレッドなどの軽種馬を除く品種は5代にわたって同一種を掛け合わせるとその品種として登録されます。また特徴もほぼ消えていくので、今のばん馬たちにトロッターやアングロノルマンの影響はほとんど見られません。
 
 そして戦後、アングロノルマン、トロッターに代わって導入されたのがブルトン種です。生育が早く、肉付きが良く、温和で従順ということで、1950~60年代に主な輸入先であったフランスで最も普及していた重種です。生産頭数が多く、選べる馬の質も高かったので戦後さかんに輸入されました。ばん馬の早熟化、スピード化に寄与した品種だと思います。

 70年代に入って、アメリカからベルジアン種が持ち込まれました。ベルジアン種は持ち込まれた馬が大型で近親交配の強い馬だったので、大成功を収め現在に至ります。初期に導入した成功種雄馬の一頭は、マルゼンスキーの馬主として、またオリンピアンで国会議員の橋本聖子氏の御父君として有名な橋本善吉氏が持ってきた馬です。この辺り、詳しくはマルゼンストロングホースの回でご紹介します。
 
 この他戦後ばんえい競馬が盛んになると、クライスデール、アルデンネなどヨーロッパの様々な重種の導入が試みられましたが、成功せず現在はほとんど残っていません。
 
 また戦前から一貫して重種改良の主流であり続けたペルシュロン種ですが、1970年代以降に輸入されたペルシュロン種には事実上別品種の馬も多くいます。というのもペルシュロンの原産国フランスでは地方品種の衰退が著しく、1960年代に品種の統合が行われていて、マイエンネ、ニヴェルネ、オジェロンという近いエリアの品種がペルシュロン種に吸収されているのです。この中のマイエンネは、大型で日本人の求める条件(おそらくは青毛が多かった。なぜか日本の生産者は青毛好きです)に合っていたため、1970年代以降輸入された馬にはマイエンネ系ペルシュロンが多くいます。
 実際に古い重種の種雄名鑑をみているとマイエンネ系の種雄馬ウルバン(体高177cm)と、明治43年に輸入されたばん馬の始祖イレネー(体高162cm)とでは体高に15cmも差があります。
 
 ということで、ちょっとこだわって言うと、ペルシュロン種マイエンネ系ペルシュロン種ブルトン種ベルジアン種、を幾重にも混ぜ合わせ作り上げられたのが日輓種です。

 純血が身上のサラブレッドの競馬を見慣れていると、品種を混ぜ合わせる?!とかなり抵抗があるのではないかと思いますが、三つの品種ごとにそれぞれ特性があります。サラブレッドでいうところの父系を、品種に置き換えてみると理解しやすいかもしれません。また、品種間の交配は雑種強勢といって強い体質や優れた資質を生み出すことも多いのです。サラブレッドでいうところのアウトブリードをより大掛かりに品種間で行っているイメージです。

品種の説明をイラストでまとめてみたので参考にしてみてください。

ペルシュロン:日本の重種改良の礎となった品種。ペルシュロン種のイレネー号はばん馬の祖として競馬場の前に銅像がたち、レースにもその名を刻んでいます。70年代以降はマイエンネ系のペルシュロンも輸入されています。

ブルトン:第二次大戦後日本に導入された品種。馬の大型化で一時期主流から遠のいていましたが、近年、仕上がり早とスピードが要求される競馬で復権してきました。

ベルジアン:1970年代から輸入され、ばん馬の大型化に貢献した「第三の品種」。ベルギー原産ですが北米で人気があり、改良が進んだ品種です。
 面白いなと思うのが、ばん馬も戦前戦後ヨーロッパからの輸入時代を経て70年代以降に北米から新しい血が入ってきたこと。日本のサラブレッド生産におけるノーザンダンサー系の導入のようなインパクトをベルジアン種の導入には感じます。

参考文献と写真提供について

 種雄馬のコラムについては以下文献をもとにテキストを書いています。これから続くものも同じ文献資料です。
実は古い種雄馬の情報や血統については競馬歴史家の田島先生の独壇場です。機会がありましたらぜひ田島先生の書かれたものを読んでみてください。その膨大な調査と知識の量に圧倒されます。

★印のついているものは現在ネット上から閲覧できるものでリンクを貼っています。
そして購入できるものはURLを載せています。興味のある方はぜひご覧ください。

・ばんえいスタリオンズ 田島芳郎著
地方競馬全国協会機関広報誌「ハロン」1997年5月号~1998年5月号連載

・ばんえい競馬の仕組みと歴史(下)田島芳郎著
日本馬事協会発行「ホースメイト」No.52 2007年11月掲載 購入問い合わせ先リンク

★ばんえい DRAFT RACE
市営協議会会報 vol.1~19

・北海道種雄馬名鑑 思い出の名馬三十年史

★ばんえいまんがどくほん

★THE BANBA ばんえい十勝10周年記念誌

写真提供:ばんえい十勝
また種雄馬の写真はばんえい十勝広報様よりご提供いただきました。
掲載写真については、ばんえい十勝広報までお問合せ下さい。