ばん馬こぼれ話 vol.2

驚愕の「巡回種付け」

 ばん馬の種牡馬は、その多くがトラックに乗って繁殖牝馬のいる牧場を巡回して種付けをします。(なんと当て馬も自らやる種牡馬がほとんど!)。遠方には種付けに行けないため、各地域に「ご当地種牡馬」がいるのもばん馬ならでは。ばん馬に全兄弟が多いのは、この“巡回種付け”に由来します。
往年の名馬が牧場に来るってすごいですよね。サラブレッドでいえばゴールドシップやキタサンブラックがトラックに乗ってやってくるようなものです。

ばん馬の牧場については小久保ご夫妻が連載されている、楽天ブログの「ばんば牧場便り」という素敵なブログがあります。懐かしい馬たちやかわいい仔馬たちの素敵な写真や、詳細な牧場ルポがあるので、ぜひご一読を!

 私がこの「巡回種付け」のお話を最初に聞いたのも、小久保さんからでした。聞いたときは衝撃で、実にいいリアクションをしたと思います(笑)

ばん馬の種牡馬もサラブレッド化する日が来る?!

 衝撃だったのには理由があって、私は仕事でサラブレッドの種馬場カタログや種牡馬のパンフレットなど、いわゆる種牡馬広告のデザインをしています。「種牡馬」というのは種馬場に繋養されているもの。そして種牡馬と当て馬(繁殖牝馬の発情を確認する牡馬)は全く別の馬。という私の馬生産の常識が覆ったからです。
 驚愕した巡回種付けですが、よくよく考えるとばん馬は種付け頭数も少ないし、道内あちこち生産牧場が点在しているので「種馬場」のビジネススタイルは成り立ちにくいのです。また種牡馬に高額なシンジケートが組まれることもないので、種牡馬の種付け頭数にこだわる必要もサラブレッドほどはありません。そもそも販売価格が違うので種付け料金にも大きな開きがあります。さらに言うと、ばん馬の生産は兼業でされている方がほとんどなので、生産者の方が繁殖牝馬をトラックで輸送することがかなり難しい。春の種付けシーズンとは農家の繁忙期でもあります。本来の家畜の生産として考えればこのスタイルが普通だし、理にかなっていると思います。
 それでも最近は日高の種馬場のリーズナブルな価格帯の種牡馬と、ばんえい競馬のトップクラスの種牡馬の価格が同じくらいになってきました。
ちなみに…サラブレッドは種付けに諸条件があるので、一概に言い難いところはあるのですが、オレノココロパドトロワ(先日サウジアラビアでリヤドダートスプリント(G3)を勝ったダンシングプリンスの父)とほぼ同額です。
 そして最近では巡回ではなく「嫁入り」として種馬屋さんで繁殖を預かってつける…という方法も増えてますし、十勝エリアに生産が集中してきている現実もあります。生産頭数の多い牧場さんでは自前で種牡馬を繋養して管理する…というスタイルもあります。巡回種付けは今後も残ると思いますが、サラブレッドのような種牡馬の繋養方法もこれからは生まれてくるのかな?と思います。

ばん馬の種牡馬がサラブレッド風に広告を作る日が来るのなら…いつかばん馬の種牡馬パンフレットを作ってみたいです。そんなお話、どっかから来ないかしら(笑)